昨年末、とうとうプリントゴッコでの年賀状作成を断念し、シルクスクリーンによる手刷りに変更しました。
その経緯と、シルクスクリーンに変えたことで気づいたことなどをメモ的に書いておきたいと思います。
目次
学生時代に購入して以来、中断はあったものの30年近く愛用してきたプリントゴッコ。
自宅で簡単に製版できる気軽さと、ひとつの版でもブロッキングすれば多色刷りできる柔軟さが当時は画期的でした。
さらに複数の版を使用することで、複雑な刷りを行えます。
どのように版を分ければたくさんの色を使えるか、工夫を凝らすのもまた楽しみのひとつ。
窓に下絵を重ねて当てて、透かしながら試行錯誤を重ねました。
窓ガラスがトレス台に代わり、さらにPCで版を作ることを覚え、もっともっと複雑な版作りに没頭しました。
プリントゴッコのおかげで、多色刷りにすっかり魅了されたとっても過言はないでしょう。
2008年に本体の生産が終了された時は本当にショックでしたが、できるだけ使い続けようと心に誓ったものです。
その後私が長年使っていることを知った友人たちが消耗品を譲ってくれたこともあり、2012年に全ての消耗品の生産が中止された後もなんとか使い続けてこられました。
しかし、インクの経年劣化だけはいかんともしがたく…
インクに含まれる油分が分離してにじみができたり、版がつまったり、油染みができるようになってしまいました。
こればかりはどうしょうもありません。
この由々しき事態を見計らったかのように、自宅で簡単にシルクスクリーンを刷れるキットが発売されたのを知りました。
レトロ工房JAMさんが開発した、スリマッカです。
シルクスクリーンの最大のネック・製版は注文で、刷りを自宅でできるようになっています。
まず何度かJAMさんのワークスペースに通って、どんな風に刷るのか店員さんに教えてもらいました。
すごく親切に何度でも教えてくださるし、放っておいてほしいときは放ってくれる適度な距離感の、とてもいいお店です。
そして、キットのお値段が手頃なことと、自分一人でもできそうだと思えてきたこともあり、あっさり乗り換えを決めてしまいました。
プリントゴッコとシルクスクリーンでそんなに手順が変わるわけではありません。
でも、全体の手間や制作時間は短縮されたように思います。
これが最大の違いです。
プリントゴッコでは自分でランプをセットして製版します。使ったことのある人はピカッと光るのを覚えているかもしれませんね。そう、あれです。
マスターの向きを間違えて製版できなかったり、フィルターを使わずにコピー原稿を製版して焦げ付かせたりと、意外と失敗の多い作業なんです。
話はそれますが、使用直後のランプの香ばしい匂いが案外好き。
一方、スリマッカのシルクスクリーンはレトロ工房JAMさんに製版を注文します。
お値段は版のサイズにより違いますが、ハガキサイズなら880円のXSサイズか1,210円のSサイズ+送料でだいたいカバーできるでしょう。
入稿は紙でもデータ入稿でもOK、「あっ作りたいな!」という制作意欲がしぼむ前には届く迅速さ。(これ大事)
プリントゴッコは製版時の原稿が必ず紙でなくてはいけないので、デジタル原稿を作っても、最終的には印刷、それもレーザープリンター(カーボンに反応して製版されるので)を使う必要が出てきます。
これが案外面倒で、レーザープリンターを持っていない私はわざわざコンビニへ出かけて印刷していました。
しかも、コンビニのマルチコピー機はpdfかjpegにしか対応していないので、Illustratorで作った原稿をpdfで書き出すというプロセスも必要でした。pdfの書き出しの設定を間違えて、非表示のレイヤーまで印刷されて泣く泣く自宅とコンビニを往復したことも。
原稿は早くできたとしても、ペーパー化の段階でもたつきがちだったんです。
シルクスクリーンではデータ入稿→製版ができるため、完全にペーパーレスに。この違いは大きいです。
プリントゴッコのインクは油性で乾きにくいです。完全に乾かすには、一晩置かないといけなにので、多色刷りの場合色数+日数分のスケジュールを組まないといけません。
ただでさえ忙しい年末に、このスケジュールをねじ込むのが大変でした。
スリマッカのインクは水性。綺麗に刷れればけっこう早く乾きます。数時間もおけば、上から刷り重ねても大丈夫です。
官製はがき用紙は吸い込みが悪いので、ちょっと多めに見積もる必要はありますが、それでもプリントゴッコのインクよりは全然早く乾きます。
プリントゴッコのマスターで同じ柄を別の色で刷りたい場合、一旦色がなくなるまで要らない紙で何枚も何枚も刷ってインクを消費する必要がありました。
スリマッカインクは前述の通り水性なので、色替えがしたければ枠ごとシンクへ持って行って洗えばOK。2020年の年賀状は早速この「洗える」特徴を生かし、同じ柄を色を変えて重ね刷りをするデザインにしました。
プリントゴッコのインクは一度チューブから出しちゃったら元に戻せませんが、シルクスクリーンのインクは余ったらヘラでしごいて元のボトルに戻して再利用します。
これはスリマッカに限らずシルクスクリーン全般そのようです。他のシルクスクリーン体験教室に行った時も再利用していましたので。
プリントゴッコの印刷はステージに乗せてパタンと押すだけで簡単です。
重ね刷りの位置合わせも楽にできるように設計されています。
シルクスクリーンは版に乗せたインクをスキージーで刷っていくので、スキージーの角度や押し付ける力、スピードなどテクニックを要求されます。
私はまだそんなに場数を踏んでいないのでわりと失敗します… 失敗すると、かすれたり、インクが乗りすぎててんこ盛りになって乾かなかったりとなかなか悲惨です。
重ね刷りも自分なりに小道具やテクを編み出していく感じです。シルクスクリーンは自由度が高い分、自分で工夫をしていくものなんですね。
私見ですが、僅差でシルクスクリーンの方が体力必要です。
案外肉体労働です。
プリントゴッコの場合、箱から出してランプとマスターをセットして製版→マスターにインクを乗せてセットしてプリント→特に汚れがなければマスターを捨てて箱にしまうだけでOKですよね。
シルクスクリーンではそうはいきません…
枠をセットして張ったり、ホルダー(一人で作業するときはあると絶対便利!)をセットしたりとセッティングに時間がかかり、片付けも同じかそれ以上大変。
それすら楽しいと思えるようになれれば、しめたものかもしれませんねー。
プリントゴッコ年賀状でいつも困っていたのが、「テキストを綺麗に刷れない+あまり小さくできない」問題。
どうしても滲んでしまうのですよね。
シルクスクリーンでは細かい線や文字もシャープに刷ることができます。
先述の製版代、高いと思われましたか?
でも、よくよく考えてみればプリントゴッコはランプにマスターに… と細かくお金がかかっていたのです。しかも、多色刷りをするために複数のマスターを使うとなると、枚数分のコストがかかることに。
シルクスクリーンで多色刷り年賀状をする場合は大きい版1枚に複数の原稿を配置すればOKなので、デザインによってはかなりお安くカラフルな作品を作れます。
しかも余ったインクは再利用できますし。
プリントゴッコの手軽さや素朴さは今でも愛していて、もし、万が一理想科学さんがプリントゴッコの消耗品を復活させてくれる日を夢見てしばらくは本体を捨てずにとっておこうとは思っています。
でも、複雑なことができるシルクスクリーンの魅力を知ってしまったことと、何よりスキージーで刷るときの爽快感はプリントゴッコでは得られないものです。
というわけで、乗り換えたことは後悔していません。もっとうまく刷れるよう、なるべく時間をみつけて無駄に刷って遊んでいきたいと思います。