フィキサチーフの代用にヘアスプレーを使えるのは本当?

フィキサチーフ。
フィクサチーフともいいますね。
日本語では定着液。

鉛筆やパステルで描いた作品は、そのままにしておくと擦れたり落ちたりしてしまいます。
フィキサチーフで表面に膜を作って保護・定着させるのですね。

さてこのフィキチサチーフ、基本的には画材屋さんでしか売っていませんし、そんなに安いものでもありません。
また、描きに出かけたのだけれど、うっかり持っていくのを忘れてしまうこともあります。

そんな時、ヘアスプレーを代わりに噴霧すればフィキサチーフ代わりになるよ、と教えてもらったことがあります。
いわゆるケープとか、VO5とかです。
確かに定着はします。
落ちやすいソフトパステルもぴたっと定着しました(これにはびっくり)

でも、耐久性はどうだろう、と、ちょっと気になりました。
本来髪の毛に使うものですし、時間的にも1日持てばいい前提で作られているもののような気がします。
何年か経って色が変わったり、定着力が劇的に落ちる可能性はないのかな?と思いました。

そこで、フィキサチーフとヘアスプレーがどう違うのが調べてみることにしました。

フィキサチーフの成分

フィキサチーフの成分については武蔵野美術大学さんのサイトに詳しく書かれています。
武蔵野美術大学 造形ファイル

このサイトによると、合成樹脂をエチルアルコール等で溶かして作るのだそうです。
また、パステル用の場合、溶剤は石油系を使うとも。

作品を保護する成分・合成樹脂

合成樹脂は、最近の製品はポリビニールブチラール樹脂、アクリル系樹脂、セルロース誘導体、ポリ酢酸ビニルなどを用いているとのこと。

ということは、作品の表面を保護してくれるのは合成樹脂ってことですね。

合成樹脂の名前はわかりました。
あとは、それぞれの特徴を知りたくなりますね。

さらに深追いします。

ポリビニールブチラール樹脂

PVBともよばれ、金属やガラス、その他色々なものへの接着力にすぐれ、アルコールに溶ける性質を持つとのこと。
溶剤に溶けたときの透明度が高いのも特徴なのだそう。
乾くと柔らかい皮膜を作る性質から、フィキサチーフに使われるんでしょうね。

フィキサチーフの他には、ネイルにも使われます。

もうちょっと詳しく書くと、ポリビニールブチラール樹脂はポリビニール、ブチルアルデヒドから合成されると。
ふむふむ。

アクリル系樹脂

アクリル系樹脂は画材に多く用いられている合成樹脂で、無色透明で硬く、強い接着力を持ち、屋外で使用しても変質しにくい特徴があります。

セルロース誘導体

セルロースを部分的に変性した水溶性高分子
セルロース誘導体 | 三晶株式会社

とのこと。(つまり私もよくわかりませんでした)

いろいろな種類があって、それぞれ特徴があるようです。
なかには無色透明で膜をつくり、接着力に富む性質のものがあるそうで。

ポリ酢酸ビニル

PVAcとも呼ばれ、無色透明で柔らかいのが特徴ですが、アクリル系樹脂に比べて耐候性や対薬品性に劣るので、プロユースの画材にはあまり用いられていないそうです。
主に接着剤や塗料、チューインガム、洗濯のり、マスカラなどに使用されます。

ヘアスプレーの成分

一方、ヘアスプレーの成分はどうなっているのでしょう。
フィキサチーフと共通するのなら、納得がいきますが、異なっている場合はどんな性質を持っているかとか、作品に吹き付けた場合の保存性なんかが気になりますね。

成分表示を見ると、香料などさまざまな成分が書かれています。
うち、フィキサチーフのように膜を作るはたらきに関わっていそうな成分について調べてみました。

ポリビニルピロリドン

PVPともいい、接着力と皮膜を作る力にすぐれています。
ただし、この皮膜は乾燥した空気中ではもろいので、化粧品として使う場合は、柔軟性や耐候性を改良するためにグリセリンやソルビトールといった保湿剤を添加するとのこと。

で、グリセリンやソルビトール+紙の組み合わせ、気になりますよね。
実は、よ〜く知られている製品があります。鼻炎持ちの私は手放せない一品です。
それは、保湿ティッシュ。

また、グリセリンは水彩絵の具やアクリル絵の具などの柔軟剤としても使われています。

アクリレーツコポリマー類

色々あるようです。

  • アクリル酸アルキルコポリマー
  • アクリル酸アルキルコポリマーNa
  • アクリル酸アルキルコポリマーアンモニウム
  • アクリレーツコポリマーAMP
  • アクリレーツコポリマーアンモニウム
  • (アクリルアミド/アクリル酸DMAPA/メタクリル酸メトキシPEG)コポリマー
  • …などなど

化粧品の成分表示にはPEG-**といった表記がなされていることが多いそう。確かに見覚えありますね。
水溶性で、乾くと柔らかい膜を作ります。

専門書ではおすすめしてません

フィキサチーフとヘアスプレーの主成分については、

  • 表面に膜を作るはたらきをする点は共通している
  • でも違う成分が使われている

ということがわかりました。

ちなみに絵画の技法書では、ヘアスプレーをフィキサチーフの代わりに使うことは勧めていません。

作品の保護のためには、品質のよい定着剤を選ぶべきで、決してヘアスプレーなどに頼ってはいけない。しかし、簡単なスケッチなどには、一時的な保護処理としてヘアスプレーなどを使用してもかまわない。
『色鉛筆で描く』(イアン・ハットン・ジェイミスン著 大内誠司[ほか]訳 MPC 1990) p168-169「定着処理」の節

大切な作品には専用のフィキサチーフを

フィキサチーフ

左:パステル用 / 右:木炭、チョーク、鉛筆用

実は私、化学オンチなんです。
何しろ理系に進学したかったのに、数学化学物理がズダボロで文系に切り替えたくらいですから。(でも志望校の受験科目に数学があり、結局数学だけは頑張ることになりました)

なので、この記事は正直申しまして、かなり手こずりました。
あれこれ調べ、なるべく正確な情報を書くようにこころがけましたが、間違いがあったら適宜修正していきたいと思います。

繰り返しになりますが、わかったことは

  1. フィキサチーフとヘアスプレーでは似て異なる成分が使われている
  2. ヘアスプレーは化粧品なので、主成分の他に使い心地をよくする成分とか香料とか様々な成分が添加されている

異なる成分が使われているってことは、「最適な成分ではない」ってことなのでしょう。
また、ヘアスプレーの添加剤が作品にどういう影響を及ぼすのか(もしくは及ぼさないのか)はなんとも言えないところです。

ヘアスプレーはあくまで応急処置にしておいた方が良さそうですね。

力作や、大切な作品にはフィキサチーフを使いましょう。
また、フィキサチーフ自体も画材によって専用のタイプがあります。
特にパステル画にはパステル用と書かれた、石油系の溶剤が使われたものを使ってくださいね。

参考文献・URL

今回参考にした文献やウェブサイトです。
よろしければこちらも読んでみてくださいね。

お礼

今回の記事を書くには文献調査が必要となったため、埼玉県立図書館のレファレンスサービスを利用し、たくさんの資料を提示いただきました。
この場を借りて篤く御礼申し上げます。

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